地球防衛隊は日夜走り回っているわけではないが、決して暇なわけでもない。人為的な犯罪が少なくなった分、外部からの、いわゆる侵略者からの攻撃が多くなってきているのが現状である。おまけに人数が少ないので一人一人の負担はやけに多いのが現実だった。
「……何をどう考えたら俺たちは“地球防衛隊”なのか?」
報告書を書く手を止めて、新橋は一人物思いに耽る。
「いきなりなんですか?」
向かいに座って資料整理をしていた春奈は新橋の呟きに疑問を持つ。
「だから、日本しか守ってねぇのに“地球防衛隊”はおかしいんじゃないかと思ってな。」
「日本しか守っていないのによくも“地球防衛隊”などと言えるものだ」と、どうも新橋には腑に落ちないらしい。
「他の国にも我々と同じようなチームがいる。それらのチーム全体を総称して“地球防衛隊”と言うんだ。新橋、お前は結成式の時に総監がおっしゃっていたことをもう忘れたのか。」
呆れたように掛井が説明する。まわりも当然頷いている。
「そう、でしたっけ?」
全員から非難の視線を浴びせられ、動揺する新橋。突然話題を別の方向へと持っていく。
「……、副隊長は8月生まれなんですか?」
「それとこれとなんの関係があるんだ?」
どうしてそんなことを聞いたのか、咄嗟に思いついたのがそれしかなかったのだろう。新橋は苦し紛れに掛井に質問を続ける。
「ほら“葉月”って名前珍しいじゃないですか。だからこれはもう、8月生まれ間違いなしと!違いますか?」
「間違いなく8月生まれだが、似合わない名前で悪かったな。」
逆効果であったようで、掛井は不機嫌そうにそう答えた。さらに動揺する新橋。隊員たちはそれを見て、笑わずにはいられなかった。
〔ヴーヴーヴー〕
「K3地区に異常な磁場の変化が発生。レベル3の要請です。」
要請のレベルが3の時だけ、この警報がなる。緊急度が高いということである。
画面を確認した平井が隊員たちから少し離れた席から叫ぶ。笑顔から一転、隊員たちは自席のモニターで状況を確認する。
「このあたり一帯では考えられないほど強力な磁場が発生していますね。それも強さが一定ではなく不規則です。詳しいことはまだ……ちょっと。」
声に段々と自信が失われていく平井。情報量が少なすぎるのだ。これでは何が起こっているのかが全く掴めない。
「何かが起こっているのは確かね。草加隊員、宮下隊員、現地へ急行して状況を確認してください。」
「了解!」
司令室を飛び出していく2人。残った者は原因究明のためにこちらでできることに最善を尽くす。
「草加です。本部、応答願います。」
しばらくして、現場に向かった二人からの連絡が入った。
「こちら本部、状況を説明してください。」
「現在、磁場の発生している中心部に来ているんですが、これと言って……」
雪冬の通信機から送られてくる映像の中にそれらしい原因は見当たらなかった。
人体に影響はなさそうだが、時折映像と音声が乱れるのと、磁場の変化による空気振動の轟音が周囲の音を遮る。状況説明に必死な雪冬を、遠くから春菜が呼んでいるのがかすかに聞こえた。
「こっち、これ見て。」
報告を一時中断し、春奈の呼ぶ方へと向かう。春奈の指差す先には、小さな箱形の機械があった。
「こんな場所にはあまり似合わない物だよね?」
磁場発生源の中心により近いのか、至近距離にいるのにさらに大声で叫ぶ。
「うん、たぶんあれが磁場を変化させているんだと思う。」
それでもほとんど聞こえないので、口元と表情でなんとか会話を続けた。
狭い路地の真ん中に、ぽつんと置いてある小さな機械。作動しているのが赤と緑のランプが交互に点滅していることでわかる。
磁力計測とランプの動きを交互に確認して、2人は顔を見合わせた。
「波形とランプの動きが一緒だ。」
ゆっくりとその機械に近づいていく雪冬。一度に大人2人が入っていくのも困難に見えるほどの狭さなので、春奈はその様子を後から見守る。
屈むのもやっとの体勢になりながら、その場で触れて良いものなのかをチェックする。そして、雪冬はその箱をようやく手にした。
「しかし、狭すぎるよ。誰があんな所に置いたんだろう。」
ようやく戻ってきた雪冬は、機械を春奈に手渡すと、ユニフォームについた汚れを払う。
機械をチェックした際に、自身の音声を文字で表現すれば良いことに気がついたので、口元には字幕が表示されていた。
「うわ、壁に擦ったせいで色が……。」
「本当だ、濃いから余計に目立ってる。」
濃紺を基本色として使われているユニフォームが、所々白くなっている。しかもなかなか落ちない。
「もういいや。とにかくそれ止めよう。耳が壊れそうだ。」
「そうだね、えーと……」
春奈は機械を一回転させる。すると箱の下の方にスイッチの様な物があった。
「これかな?……ん、これだね。」
「スイッチつけておくなんて、親切っていうか、なんというか……。」
騒音以外に大きな被害もでていなかったので、2人はすぐに本部へと戻った。
「とんだいたずらだよ。こんな事するなんてさ。」
なんの被害もなくてよかったと呟きながら苦笑する雪冬。報告後、機械を手に2人は通路で意見を交わしていた。
「やっぱりやったのは子供なのかな?」
春奈はなんだか腑に落ちないらしく、あれこれと考えていた。
「ねえ、雪冬はどう思う?」
「えっ?んー、子供だとしても、あれだけの機械が作れるかなぁ?」
「でも、しっかりスイッチまであるなんて、何かを参考にして作っただけかもよ?」
それも一理あるね、と雪冬は頷く。言っておきながら春奈も納得はしていない。
「なんでもいいから、早くそれ持って行けば?解析班が待ってるんだろ?」
資料室から戻ってきた大化は、2人が持っている機械を指して呆れる。
考えすぎて歩くことすら忘れていた2人は慌ててそれを解析班のもとへと持っていったのだった。
その後の調査の結果、犯人は現場付近に住む10歳の子供であると断定された。
特に大きな被害が無かったため厳重注意で事は納められた。
「最近の子供はなかなか侮れないですね。」
自身もまだ10代であるにも関わらず、平井が感心したように呟く。SKYのなかでは科学者に位置する立場。心境は複雑なのだろう。
「保護者が機械関係の仕事だったらしいね。真似して作ったってところかな。」
謎が解けて一安心の雪冬。平井をフォローしているつもりらしいが、あまり平井は聞いていなかった。
「今回の件、レベル3で要請してきた観察は相当絞られたみたいだぞ。」
平井の肩を励ますように叩きながら、掛井は補足情報を付けたす。
「もう少し様子を見てから要請するべきでしたね。なんの情報も無かったですから。」
当初情報の少なさに翻弄された平井は当然だと言わんばかりに憤慨する。
「だから僕は情報の撤廃には反対だったんですよ。」
加えて組織改革の際に廃止された班の待遇に文句がでる。平井は元情報班なのである。
「情報は観察と統合されたんだろ?無くなったわけじゃ…」
「無くなったも同じです!」
声をかけた新橋が平井に食いつかれるという珍しい状況が起きた。
「やめておけ。情報と観察の仲が悪いのは有名な話だぞ。」
今度は堀が新橋の肩をなだめるように叩く。面食らった新橋は素直に頷くだけであった。