――午後10時
C-23、宇宙通信開発機構のとある一室は、その中心部を無数の生命体で埋め尽くされていた。
生命体が群がる中心からはあの巨大なパラボラアンテナへと続く配線やら装置が複雑に絡み合っている。連絡を受けて駆けつけたSKY隊員たちは、ペアごとにそれぞれ3方に別れて配置についた。
入り口付近の新橋が生命体に照準を合わせようとした時、掛井がそれを制した。同時にその場の隊員たちに通信が入る。
「もう少し様子を見るんだ。」
仕方がないとばかりにオーバーなリアクションを返して新橋は銃口を下げた。だが、隊員たちの利き手はホルスターにしっかりと添えられている。何が起きるかわからない、誰に指示されるでもない自主的な行動であった。
そうしてしばらく生命体の様子を伺っていると、やがて一同が両手と思われる部分を精一杯掲げ、それを左右にゆらゆら振る規則的な動作を繰り返し始めた。
「何だろう、やけに儀式的だけど。」
「ああいう動きの場合は大抵上空へのメッセージ要素が高いからね。なにか呼んでいるのかも。」
春菜と雪冬はつられるように上を見上げた。対角線上にいる大化と澪の視線も上空に注がれていた。
ガラス張りの天井はパラボラアンテナ越しに星空が見えるばかりで特に変わった様子は見られない。
息を殺したまま更に数分が経過した。堀が体勢を変えようと身じろぎしてよろめき、室内に甲高い音が響く。
「しまった。」
堀の呟きと同時に生命体は動きを止め、入り口付近を一斉に振り返った様に見えた。
「来るぞ。いいな、攻撃的な思考は極力するな。」
掛井の指示新橋と堀が静かに頷く。この辺りまでは想定通りだった。主立った危害を加えるでもない相手に対しては、余程の事が無い限りは静観をする。今回もその例に当てはまる。ある一点を除くという条件付きで。
「わっ!こら、やめろ!!いてっ!こら!!」
誰かが生命体に攻撃(じゃれているようでもある)を受けているような声が聞こえてきて、部屋の隅にいた隊員たちは警戒しつつも立ち上がって周囲を確認する。
「やっぱり新橋さんやっちゃっいました?」
平井が少しだけ嬉しそうに声をあげる。今は音声だけが司令室へ送信されているので、司令室にいる平井には状況が見えない。
「なんでもかんでも俺だと思うなよ。」
返ってきたのは不機嫌そうな新橋の声だった。
「あれ?じゃあこの声は……」
返事を待つより先に指令室のモニターが切り替わった。誰かが映像通信を開始したのだと慌てて平井は視線を移動させる。
照明の付いていない真っ暗な室内映像から一転、画面は暗視映像へと切り替わった。その瞬間平井の目に飛び込んできたのは予想もしていなかった人物だった。
「副隊長?!」
小さな生命体に囲まれ攻撃を受けている掛井。まるで物語に出てくる巨人と小人のようでもあった。
「副隊長、落ち着いてください。冷静になればすぐ離れますから。」
堀からの助言に掛井は数回頷くと、深呼吸をしてからゆっくりと目を閉じた。すると、攻撃を続けていた小さな生命体たちはするすると掛井の体から離れていくのである。
「もういいですよ。」
最後の一体が離れたところで再び堀が声をかける。
「面目ない。避けようとしたら一体を踏んづけてしまって、飛びかかって来るもんだからつい身構えてしまってな。」
やれやれちいった感じで状態を起こすと、気恥ずかしいのか、聞いてもいない理由を語りだす掛井。こういう時は掛井もよく喋る。
「やはり、仮説は正しかったようですね。」
堀の調査でこの生命体は相手の攻撃心や警戒心に異常な反応を示す可能性が高いことが事前に周知されていた。あくまでも似たような生命体のデータから導き出した堀独自の考えだったが。
「ああ、間違いないな。」
生命体たちは再び元の位置へ戻り、先刻の動きを繰り返している。
気を取り直して、再び隊員たちは息を潜めたまま見守る体勢へと戻った。